研究室何処へ
研究室の日々,大学の日々を綴ります
英語力
 最近、入試科目の英語の代わりに、TOEICやTOEFLのスコアが使われることが多くなってきました。TOEFLは本来、海外留学希望者を対象とした試験だったせいか、国内の大学院受験希望者が殺到するという事態は想定されていなかったのだと思います。特に、TOEFLはコンピュータを利用した試験形態となったことから、受験会場の定員に限りがあって、大学院入試の出願を目前にスコアを取得しなければならない4年生が殺到し、どこの受験会場も満席になっている模様です。運よく受験会場の予約がとれても遠隔地だったりして、学生たちは右往左往しています。
 ところで、4年生でTOEFLにまともに太刀打ちできる学生はどれほどいるのだろうか、と思いを巡らせました。
 国際会議の場で、プレゼンテーション後の質疑応答の内容が理解できず、冷や汗を流しながら立ち往生する博士課程の学生を、これまで何度も見てきました。博士課程の学生にとってデビュー戦の国際会議は大変な緊張を伴うものなので、一般にはプレゼンテーションについては万全の用意をして出かけます。従って、発表講演は完璧なのですが、問題は質疑応答で、こちらは想定問答どおりにはいきません。質疑応答以前に、何を質問されているのかが聞き取れなければ、手の打ちようがないのです。

 日本人が多い会議であれば、概ねフロアにいる日本人研究者が質問内容を日本語に通訳して教えたり、場合によっては、共著者の教員が学生に代わって回答したりします。質疑応答困難な学生だとわかると、外国人による質問から学生を守るように、日本人教員が分かりやすい英語で学生に質問を投げかけて質疑応答の時間をやりすごす、といった、荒手のテクニックを駆使して乗り切ることもあります。
 国際会議では、バンケットやコーヒーブレイクでの各国研究者とのディスカッションや歓談も楽しみのひとつです。宿泊ホテルが一緒であれば、毎日の朝食や夕食も共にしながら、研究上の悩みや将来の課題についてディスカッションしたり、あるときは雑談でリラックスすることが可能ですが、英語ができなければそうした楽しみは半減してしまいます。
 おそらく、企業に就職する場合でも同様で、高度な職業人として国際化するビジネスのニーズに柔軟に対応できることは企業人として必須であろうと思います。と考えると、博士課程のみではなく、修士課程においても、分野を問わず英語は重要なものとなるでしょう。

 本来は、修士・博士課程入学前に、研究活動に必要な最低限の英語力は身に着けておくのが理想的ですが、なかなかそのようにはなっていません。こうした現状から考えると、大学院入試の英語を、実践的なコミュニケーション能力にターゲットを置いているTOEFLやTOEICで代用するというのは、会場の予約できないという事態を除けば、あながち悪いことではないように思います。英語論文を読解できる能力はもちろん重要ですが、それ以上に、日本語英語を問わず、コミュニケーション能力全般を高めるという視点が見出されていくべきであろうと思います。
公募の季節
 JREC INと呼ばれる研究者向けの求人サイトがリニューアルされました。検索機能重視となり、一覧性に乏しくなったような気もしますが、しばらくすれば新しいインターフェースに慣れるでしょう。
 大学では、これから秋までの季節が教員公募の第一のピークです。一般に、年度末で退官する教員の世代交代要員の公募である場合は、前任者が退官する前年の夏、あるいは前々年の夏に公募情報が公開されるからです。そして、第二の公募のピークは冬です。秋に他大学に引き抜かれることが判明した教員ポストについて、その空白を埋める玉突き人事が動く時期です。
 面白いことに、既に専任ポストを得ている教員も、案外このJREC INという求人サイトを頻繁に見ているようです。専任教員となっても、ステップアップを希望する場合は、このJREC INを頼りにしています。また、研究者仲間の間では時々、○○大学で△分野の人事が出ているね、××大学のポストはデキ公募だろうか、と噂になります。狭い世界なので、よく知っている研究領域や大学の公募であれば、新設学科でない限り、公募対象の大学名と公募分野から、それが誰の異動後のポストであるか、同定できてしまうケースも少なくありません。

 リニューアルされたJREC INを眺めていると、民間企業の研究所の研究開発職や専門学校の教員公募も含まれていることに気がつきました。以前から大学機関以外の公募もJREC INの中に含まれていたのだと思いますが、改めて博士号取得者の進路が多様化しつつあるのだということを実感しました。博士号取得後の進路が多様化しつつあるのはよいことだと思いますが、依然として博士号取得者の進路決定は非常に厳しい状況に置かれています。この春も、長年の努力の結果として学位を取得しながら、大学教員として研究室を主宰するという道をこころざし半ばで断ち切って、大学を去っていく若手の背中を見送りました。もう少し何か、力になることができたのではないだろうか、と思ったりします。
背負うもの、その先に
 研究室から見える風景は既に夜景です。午後、現職閣僚の自殺というニュースが駆け巡りました。理由はどうあれ、痛ましいことです。

 このニュースに触れて、というわけではありませんが、大学教員という立場にも少し想いを巡らせました。
 大学の研究者は気楽な商売だと考えられている方も多いと思いますが、日本の教育研究をリードするクラスの大学において、所属する各研究者に圧し掛かる職責に対するプレッシャーは、想像以上に大きいものだと思います。○○大学教授△△ という肩書は、時として一人歩きをはじめます。自分の知らない人から、自分の知らないところで、自分の仕事や業績が賞賛や批判に晒されるようになります。公的な場に出ることも増え、更に肩書が増えると共に、マスコミからも取材を受ける立場となります。脱げない冠の如くに大学名と肩書を背負い、学内外の演台で語ること・書くことのその先に、常に世間の目線が存在している感覚に囚われます。職業人として、常に○○大学の××分野における第一線の研究者でなければならない、という立場を背負うことを、逆に研究へのエネルギーに転換できればよいのでしょうが、常にそのように、というわけはいかないものです。
 もうひとつ、研究者は非常に孤独な存在です。オリジナリティと孤独とは表裏一体で、孤独に何かを突き詰め続けることでアイデンティティを確立しています。これまで多くの研究者を身近に見てきましたが、最先端の場所にいる研究者であればあるほど、孤独であるように感じます。独立した研究室を主宰していれば、そこで若い学生を育てながら、頭のどこかによぎる不安をも完全に払拭し、研究室の能力を信じて研究を引っ張り続けなければなりません。仲間はいても、基本的には非常に孤独な存在です。研究者としてステージアップすればするほど、逆に、葛藤や不安感が増大するというのは、因果なものです。
 
 そうした職責の重圧や孤独感にさいなまれながらも、それでもなお、走り続けていなければいられない、止まれないのが、研究者の宿命なのかも知れません。anywhereが育った研究室の教授は世界をリードする第一線の研究者ですが、おそらくanywhere以上の職責の重圧を感じながら、今日も走っているに違いありません。

テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

研究大学、教育大学
 大学教員が集まる飲み会で、「研究する大学」、「教育する大学」を選別し差別化することの是非について話題になりました。
 文科省は、数年前から国立大学を中心として、公立・私立大学も含め、研究教育に関する予算を特定大学に重点的に配分させるという政策をとっています。「研究する大学」としては、複数のCOEを同時展開するクラスの大学が想定され、大学は研究者養成機関としての役割を果たします。一方、それ以外の大学は、社会の様々な局面を支えるために必要となる知識や技能を身につけた幅広い人材を社会へと送り出す、という役割を果たすことが想定されます。
 教員の立場でいえば、もし前者の大学組織に所属するなら研究は思う存分できますが、そのマネジメント業務で日々のストレスを抱えることになるでしょう。一方、後者の大学組織に所属すれば日々の競争的環境からは開放されますが、相当の時間を講義や演習実験、学生指導に割かねばならなくなり、逆に研究に必要な時間や資金など研究資源が確保しづらくなる、といった問題が生じます。

 近年、文科省の政策が功を奏して、大学間格差が実態として拡がってきていると思います。少子化の影響もあって、学生確保に困難をきたす大学が増えるにつれて、学生教育に活路を見出すことで生き残りを図ろうと、ますます教育にコストをかけるという方向へ向かう大学がある一方で、トップレベルの大学では巨額の資金集中を活かし、更なる教育研究環境の充実を図っています。

 こうした差別化やポリシーの違いが、各研究分野の発展に与える影響を、今一度議論する時期に来ているように感じます。資金の集中配分によって世界的な研究教育拠点の形成が可能になるという議論に、疑問を感じることがあります。広く「教育する大学」にも一定の研究の素地を残すことによって、「教育する大学」から、予想外によい研究が発信される可能性が残されることになります。学問の発展には懐の深さが必要であり、そうした懐の深さが、学問分野の持続的な発展可能性を支えているような気がして、なりません。

講義開始
今週から講義が始まりました。
受講登録数はさほど多くありません。教室はまじめで落ち着いた雰囲気で、講義に適切な規模・環境になりそうです。